遺言書と言うと、どうしてもネガティブなイメージを連想されがちですが、最近では「エンディングノート」とか、「終活ノート」などと呼ばれ始めており、実際は遺言書を書く事で自分の人生を真剣に振り返るきっかけとなるとともに、家族への感謝の気持ちを綴ることにもなる、とても大切な行為なのです。
遺言書を書く事によって「死」へと向かうのではなく、残りの人生をどう生きるべきかについてちゃんと向き合って前向きに考える事ができるのです。
また、遺言書は「書いた方が良い」場合と、「書かなければトラブルになる」ケースとに分けられます。
今回は、特に遺言書を書くべきケースについてその理由も踏まえてアドバイスします。
■遺言書を絶対に残すべき3つのケース
○ケース1:子供がいない場合
子供がいない夫婦の場合は、夫婦のどちらかが死亡して相続が発生した場合に、かなりの確率でトラブルとなります。
最近よくあるケースとして、まだ働き盛りの30〜40代の旦那さんが、心筋梗塞などで突然死してしまった、というような場合です。
子供がいないと、法定相続人は以下のようになります。
○ 配偶者(妻)
○ 夫の両親
また、夫の両親がすでに他界している場合は、夫の兄弟姉妹が法定相続人となります。
つまり、妻からすればこれらの相続人は血のつながらない間柄ですので、夫の死を起点として相続がトラブルになりやすいのです。
簡単に言うと、生前に夫の両親や兄弟姉妹と良好な関係を築いていれば良いのですが、もともと疎遠だったり、あまり仲が良くなかったりすると、夫が死亡したことで妻に対する不平不満が一気に表に出る事になるのです。
法律上は、夫の両親であれば1/3、兄弟姉妹であれば1/4の法定相続分があります。例えば夫に自宅以外にめぼしい財産がないと、最悪の場合夫との思い出の詰まった自宅を売らなければならなくなる可能性もあります。
そのため、このようなケースでは遺言書によって誰に何を相続させるのかについてはっきりと指定しておく必要があります。
○ケース2:再婚していて、前妻、後妻両方に子供がいる場合
今後トラブルが増えると予想されるのが、このパターンです。誤解されている方も多いのですが、離婚をした場合、前妻との間には一切の相続関係は生じませんが、前妻との間に授かった子供は、たとえ前妻に引き取られて育ったとしても、父親が死亡すれば血のつながった子供ですので、正当な相続人です。
ですから、もしも父親が再婚して後妻との間に新たな子供を授かった場合は、それぞれの子供が「平等に」相続権を有する状態となります。
これを正しく認識していない方も多く、父親の死亡を機にほとんど面識のない双方の子供がそれぞれの相続分をめぐって争う事になります。
争いを防ぐためには、事前に後妻とその子供にこれらの事情を説明した上で、遺言書によって適切な遺産分割案を記載し残す事です。
○ケース3:法定相続人以外に財産を譲りたい場合
このケースで最も多いのが、義理の母と妻との関係です。(ここでは義理の父はすでに死亡していると仮定してください)
例えば、旦那さんが病気ですでに他界し、その後旦那さんの母親、つまり妻からすると義理の母親と共に長年暮らしてきたような場合です。実際にこのようなケースは珍しくなく、義理の母親の介護を生涯やり遂げるすばらしく献身的なお嫁さんがいるのです。
しかし、法律上は義理の母親と妻との間には相続権は生じません。そのため、万が一義理の母親が死亡した場合は、その子供たちが相続人となります。そうなると問題なのが残された妻の住まいです。
義理の母親名義の家に同居していたような場合、その家を本家の子供たちに相続されてしまうと、彼らに家賃を要求されたり、最悪の場合退去を迫られたりする可能性もあるのです。
そのため、自分の介護を献身的にしてくれるお嫁さんを不幸にしないためには、必ず遺言書に「遺贈」する旨を記さなければならないのです。
また、似たようなケースで、婚姻関係のない内縁の妻や遺言によって認知をしたい場合なども必ず遺言書を残す必要があります。
■もう一つの選択肢:生前贈与
相続時のトラブルを回避するもう一つの手段として「生前贈与」という手法があります。生前贈与とは、文字通り自分が生存しているうちに他人に財産を贈与する事です。
確かに、生きているうちに自分の財産を全部分配してしまえば、死亡後に争いなんて生じません。しかし、なぜそれが簡単にできないのか、それは贈与には「贈与税」がかかるからです。
つまり、生きている時に財産を移転すると「贈与税」が、死亡による相続によって財産が移転すると「相続税」が課税されるため、どちらにしても税金がかかるのです。
なお、時々こんな事を言われる方がいます。
「息子に安い金額で不動産を売りつけた事にすれば、贈与にならないのでは?」
残念ながら、相場よりも著しく安い金額で売買すれば、それは贈与とみなされます。
また、
「息子が金持ちだから、高い金額で売ってこっちが儲けるのはありでしょ」
なんて人もたまにいますが、当然そうなると「所得税」がかかります。
つまり、どう財産を移転させようが、何らかの税金の影響は受けるのです。
すこし逸れましたので話を戻しましょう。
こうなると当然こんな疑問が浮かんできます。
「贈与と相続どっちが得なのですか?」
はい、これが最も難しいところです。
一言で言うと、その答えは「人によって違う」と言わざるを得ません。
なぜなら、贈与税と相続税は税率も違えば適用できる控除制度も違います。そのため、当事者の年齢、収入、家族構成、資産内容などによってベストと言える方法は異なってくるのです。
■遺言書は自分一人で書かない、必ず弁護士に相談を。
最近では一般の方でも手軽に遺言書が書けるよう、レターセットのような遺言書キットも売られていますが、できる限り遺言書を書く際には事前に一度弁護士に相談して下さい。
重要な事は「遺言書は書けば良いというものではない」という事です。
例えば、遺留分、特別受益、寄与分といった法律上の規定や目安を一切無視して好き勝手に書くと、返って紛争を誘発する恐れもあります。
さらに、
○ 直筆で書いてない。
○ 署名捺印がない。
○ 日付の記載がない。
こう言ったミスがあると、遺言書はただの紙切れ同然となり執行能力がありません。
あなたが生涯をかけて築き上げてきた大切な財産です。万全を期すためにも、遺言書を作成する際には必ず弁護士に相談しましょう。
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