認知症遺言書有効性のイメージ

■認知症の方の遺言能力の有効性

 

遺言書について、多くの方が関心を寄せるようになりました。ところで遺言書は誰でも書けるものなのでしょうか。

今回はこの点について、特に認知症の方が遺言を残す場合の有効性について解説したいと思います。

 

「遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない」と民法963条は規定しています。つまり、遺言を作成する時に自己の行為の結果を判断できる精神的能力を有している必要があり、これを「遺言能力」といいます。

 

遺言は法律行為のひとつであり、法律行為を行うには意思能力が必要とされます。重度の精神疾患などがあり意思無能力の状態で遺言を作成しても効力がないため、原則として認知症の方が行った遺言には法的効力はありません。ただし、認知症の方が行った遺言が常に無効なわけではなく、意思能力が回復している状態であれば有効な遺言を行えます

 

 

高齢者は認知症になりやすいのですが、意思能力が正常かどうかを判断することで有効な遺言を作成することができます。意思能力を判断する手段としては、専門医の下で受けられる長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)があります。

 

【改訂 長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)】

 

HDS-Rは以下の9項目の設問に対する解答を点数化して、認知症であるかどうかを判定する簡易知能評価スケールです。

もちろんこのテストでの結果で即認知症と診断されるわけではありませんが、参考とされることがある評価方法の一つです。

(詳細は専門医にお尋ねください。)

 

No. 質問内容
お歳はいくつですか?
今日は何年何月何日ですか?

何曜日ですか?

私たちがいまいるところはどこですか?
これから言う3つの言葉を言ってみてください。あとでまた聞きますのでよく覚えておいてください。→7
100から7を順番に引いてください。
私がこれから言う数字を逆から言ってください。
先ほど覚えてもらった言葉をもう一度言ってみてください。
これから5つの品物を見せます。それを隠しますのでなにがあったか言ってください。
知っている野菜の名前をできるだけ多く言ってください。

※ 30点満点中20点以下であれば「認知症疑い」、21点以上であれば「非認知症」という判定基準となっています。

 

 

遺言者の意思能力は、

 

①本人の認知症がどういうもので、どの程度であったか

②本人がどういう経緯でその遺言を行ったのか

③遺言をどういう状況で作成したのかを勘案し、

④遺言の内容が易しいものであるか、それとも難しいものであるか

 

などの関連性を考慮して判断されます。

 

 

例えば、複数の不動産を複数人に相続させたり、複数の預金を複数人に相続させたりという場合は、かなり詳しい遺言の内容を書かなくてはなりません。このような場合は易しい遺言には該当しないので、認知症の程度が高い人が書けるような内容ではないと判断されます。つまり、このような難しい内容の遺言を認知症の疑いのある高齢者の方が書いたとしても、作成時に遺言者に遺言能力はなかったと判断される可能性が高くなります。すなわち、遺言の意思を持って書いたとは認定されにくいということです。

 

遺言者に意思能力があるかどうかは、遺言を作成した時に本人がどういう状態であったかによって判定されます。HDS-Rの結果が10点以上あれば、意思の疎通が可能であると判断される傾向にあります。

 

 

■遺言書の3つの種類

 

遺言は「要式行為」と呼ばれる法律行為であり、法律に従った形式で遺言を作成しなければ効力はありません。民法が定める遺言書には、次の3種類があります。

 

(1) 自筆証書遺言

 

自筆証書遺言とは、実際に自分が直筆で書く遺言書のことで、一番簡単に作成できるタイプの遺言書です。安く手軽に作成したい場合には最適な遺言書です。しかし、自筆証書遺言を効力あるものとするには、以下の方式を備えている必要があります。

 

  • すべての文を自分で書く
    すべて直筆である必要があり、パソコンなどで作成したものは認められません。
  • 日付を自筆で書く
    日付を明確に特定できるように、自分で書く必要があります。
  • 署名・捺印を自分でする
    これが無ければ無効となります。

 

 

以上の様式は民法で定められたものですので、いずれがひとつでも備わっていなければ遺言書は有効なものにはなりません

 

なお、使用する紙についてですが、市販の遺言書作成ツールもありますが、便せんやノート、またはメモや広告の裏などへの走り書きでも、民法に定められた要式を備えていれば遺言書としては有効です。

 

【メリット】

 

  • その場ですぐに自分で書けばいいだけなので、費用もかからず手軽に作成できます。

 

【デメリット】

 

  • 遺言書を作成するのに慣れていないとミスをしやすい
    →せっかく書いた遺言書が無効となり、トラブルの原因となりやすくなります。
  • 遺言書の保管を自分でする必要があるため、紛失したり書き換えられたりするリスクがある
    →遺言書が複数見つかってトラブルとなったり、誰かが遺言書を偽造したりする恐れもあります。
  • 相続が開始してから裁判所で「検認」という手続きをする必要がある
    →相続人全員が集まり、検認においてはじめて遺言書が開かれることになります。もしその前に誰かが開いてしまうと、トラブルにつながるケースもあります。

 

(2) 公正証書遺言

 

公正証書遺言とは、公証役場公証人の立会いのもと、公証人に作成してもらう遺言書のことです。公正証書遺言の作成の手続きは、以下の手順で行われます。

 

  1. 本人と2名の証人で公証役場へ行きます。
    本人が高齢で公証役場へ出向けない場合は、病院や介護施設、自宅などへ出張して行うこともできます。
  2. 2名以上の証人の立会いのもと、本人が遺言の内容を公証人に口頭で伝えます。
  3. 遺言を作成する際には、公証人は本人と証人に内容を読んで聞かせます。
  4. 本人と2名の証人が内容を確認して、正確であれば各自が署名・捺印します。高齢者の場合には、公証人が代筆することも認められています。
  5. 公証人は、要式に問題がないことを確認してから署名・捺印します。

 

【メリット】

  • 公証人が作成する
    公証人は一定の試験に合格した人や裁判官、検察官、弁護士などの有資格者で、法務大臣によって任命されます。遺言書などの公正証書を扱うプロです。なので、作成するにあたってミスの心配をしなくて済みます。
  • 公証役場に保管してもらえる
    原本を公証役場で保管してくれるので、紛失・改ざんなどのリスクがありません。
  • 検認が不要となる
    公証人が関わるため相続時に検認手続きは不要となります。その分、相続の手続きもスムーズに行えます。

 

【デメリット】

 

  • 2人の証人が必要で、作成するのに費用と手間がかかる
  • 手間と手数料がかかるため、簡単には書き直したりできない
    (書き直しがしづらいことが、返ってメリットと考えることも出来ます)

 

(3) 秘密証書遺言

 

秘密証書遺言とは、遺言の内容を誰にも知られたくない場合に作成する方式です。パソコンなどで作成しても手書きでもよく、公証役場で存在を証明してもらいます。

※何らかの理由で秘密証書遺言としての条件を満たさない場合、自筆証書遺言としては有効となりうるため、手書きで書いた方が無難ではあります。ただし、秘密証書遺言はその手続きの煩雑さと公正証書遺言に比べて遺言として認められなくなる恐れがあることから、実際はそれほど用いられてはいないようです。

 

秘密証書遺言を効力あるものとするには、以下の方式を備えている必要があります。

 

  • 本人が自分で署名・捺印する必要がある
  • 封入・封印をする必要がある
  • 証人が2人以上必要である

 

秘密証書遺言の作成の手続きは、以下の手順で行われます。

 

  1. 本人が遺言書を作成して、署名捺印してから封印します。
  2. 公証役場で公証人に遺言書の「存在」を確認してもらい、捺印をしてもらいます。内容の確認はしないため、相続開始時には家庭裁判所で検認する必要があります。

 

【メリット】

 

  • 遺言書の内容を知られることなく、公証人に存在を証明してもらえる

 

【デメリット】

 

  • 作成する手続きが複雑にも関わらず、相続開始時に家庭裁判所で検認を受ける必要がある
  • 内容までは確認しないため、開封した後で無効であることが発覚するリスクがある

 

 

■まとめ:遺言書については弁護士に依頼しましょう

 

以上のように遺言書には民法で定められた3つの種類がありますが、認知症の方が遺言書を作成する場合には公正証書遺言で作成することをおすすめします。自筆遺言は遺言者本人がすべて自筆で書く必要があるのですが、公正証書遺言の場合は公証人に作成してもらって本人は署名するだけでいいからです。また、公証人によって立会いのもと作成されるので、遺言能力があったかどうかについて争われても効力が認められる可能性は高くなります

 

どのタイプの遺言書を作成するにせよ、不備があると法的な効力は認められなくなるので、遺言書を作成する場合には専門家である弁護士に依頼することをおすすめします

 

また、遺言書を任せるのであれば、遺言執行者まで担当してもらい、実際の遺言の執行、遺産相続における遺産分割協議書の取りまとめなども依頼できればなお確実です。

 

埼玉県越谷市にある当エクレシア法律事務所は、遺言書にも強い弁護士事務所で、実績も豊富にございます。越谷市と隣接する春日部市や草加市、川口市、吉川市、また三郷市、八潮市、東京都足立区、千葉県流山市、松戸市など、周辺エリアも対応可能です。

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