遺言書は自分の意思を残すための最後にして最大の手段であり、この権利は最大限尊重されなければなりません。では遺言書を作成するためには、何か条件などがあるのでしょうか。
■何歳になれば遺言書は書けるの?
遺言書は自由な意思に基づいて書かれるべきものですが、誰でも書く事ができるわけではなく一定の年齢制限があります。
“民法第961条:15歳に達した者は、遺言をすることができる。”
つまり法律では、15歳つまり中学三年か高校入学となればだれでも遺言書を作成することができます。
それ以下の年齢の子供が遺言書を書いたとしても、その遺言書は法的には有効ではなく無効です。また、たとえ両親であったとしても、子供に遺言書を書く事を強要することはできませんし、親が勝手に書く事もできません。
■その他に遺言書を書くための要件ってあるの?
民法には年齢制限以外にも次のような条文があります。
“民法963条:遺言者は、遺言をする時においてその「能力」を有しなければならない。”
ここで言う「能力」については、法律では明確に規定されていないため、過去裁判においてさまざまな争いが繰り広げられてきました。
その結果次のような判例が出ており、それが一つの基準となっています。
「遺言には、遺言者が遺言事項(遺言の内容)を具体的に決定し、その法律効果を弁識するのに必要な判断能力(意思能力)すなわち遺言能力が必要である」
意思能力とは、自分がした行為の結果を判断することができる「精神的能力」のことを言います。
つまり、
人を殴ったらいけない。
他人の物を壊してはいけない。
と言ったことを自分自身で理解し判断できる7~10歳程度で備わる能力のことです。
この判断はとても難しく、遺言書を書いている時点を基準に考えます。ですから、たとえ精神的になんの問題もない人が作成した遺言書であっても、酔っ払って酩酊している状態で書いたのであれば、それは無効という考え方になります。
また、認知症であったとしてもそれだけをもって一概には遺言能力がないとは判断されません。認知症患者の方でも、調子の良い時にはご自身の意思でしっかりと物事を判断できる場合もあるからです。
■遺言書を作成する際にできる対策
こういった場合は、相続開始後に他の相続人から遺言書の有効性について争われないようにするため、遺言書の作成状況をノーカット動画によって撮影しておくという方法があります。この際に弁護士に立ち会ってもらうのもよいでしょう。但し、すでに成年被後見人になっている場合については、次の方法が適用されます。
■成年被後見人が遺言書を書く場合
判断能力が不十分になった方は、ご家族の方が家庭裁判所に申し立てることで成年被後見人になることができます。成年被後見人となった場合は、日用品の購入など以外は原則すべて取り消すことが可能になるため、一般的な法律行為はできません。しかし、遺言書の作成については、本人の意思を尊重するために次のような規定が設けられています。
民法第973条
“1:成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには、医師二人以上の立会いがなければならない。”
“2:遺言に立ち会った医師は、遺言者が遺言をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して、これに署名し、印を押さなければならない。ただし、秘密証書による遺言にあっては、その封紙にその旨の記載をし、署名し、印を押さなければならない”
このように遺言書を書く際に医師2名以上に立ち会わせることで、本人が遺言できる状態であったことを証明するのです。
■子供が事故に遭ってしまい、昏睡状態です。子供の代わりに母親である私が遺言書を書いてはダメですか?
ダメです。
遺言とは本人が亡くなる前の最後の「意思表示」です。
つまり、遺言書は必ず本人の「意思」によって書かれなければならないのです。ですから、たとえどのような状況であったとしても、そして親だとしても代わりに書く事はできません。
そのような場合は、遺言書ではなく相続開始後の遺産分割協議によって相続分を確定させるしかありません。
相続人間のゴタゴタ、紛争の原因になるのは誰でも避けたいもの。
ですから、遺言書は自分にはまだ早い、財産が少ないから、といった理由で関心が無かった方も、遺言書の必要性を覚えて前もって遺言能力がある時点で正式なかつ正しい形式の遺言書を作成してみてはいかがでしょうか。その際、弁護士に相談されることで、ミスをなくし、確実な意思表示をすることをおすすめします。
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