認知症遺言書無効のイメージ
2004年に痴呆症から呼び名がかわった「認知症」の方が遺言を残すための手続き等については、前回解説をしました。

参考:認知症の家族の遺言書は無効?(前編:認知症と遺言能力など基本編)

 

■認知症の故人による遺言についての争い

今回は、認知症の方が遺言を残した際に無効となるケースについて、今回は見ていきたいと思います。

 

認知症の高齢者でも効力のある有効な遺言書を作成することはできますが、本人に有効な遺言ができる意思能力(遺言能力)があることが必要とされます。それを判断するためには、専門医の下で長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)などを受ける必要があります。

(参考:前述の記事(【改訂 長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)】)

 

ただし、認知症の高齢者がHDS-Rなどを受けて遺言を作成することはあまりありません。そのため、認知症の高齢者が正確な遺言書を書けないにもかかわらず遺言を作成してしまうということがあるのです。

その後、本人が亡くなってから、一部の相続人だけに有利な遺言が発見されるということがあります。また、故人が認知症であることを悪用して、特定の相続人に不利となる遺言書を予め用意するというケースもあります。このような場合、遺言の内容により不利な扱いを受けた相続人は、遺言の無効請求をすることができます。

 

■認知症(痴呆症)を原因とする遺言の無効

認知症はあくまでも医学上の概念であり、遺言が法律上有効であるか無効であるかとは関係ありません。そのため、認知症・痴呆症と診断されると必ず遺言書が無効となるわけではないのです。

認知症が原因で遺言書が無効とされる原因にはさまざまなものがありますが、本人の症状の程度に左右されるケースもあれば、無効となる事由に該当して遺言書が無効となるケースもあります。

 

認知症の方が自筆証書遺言あるいは公正証書遺言を作成した場合には、それぞれ遺言書の効力が問題となる場合は異なります。

 

(1)自筆証書遺言の効力が問題となる場合

認知症・痴呆症の方が自筆証書遺言を作成する場合には、

  1. 言葉を忘れたりして自分で書くことができないのではないかということ、
  2. トータルに認知症の症状を勘案して意思能力を有していないのではないかということ

が問題となります。

自筆証書遺言を作成する際には本人が自分で遺言書を書く必要があるので、精神的能力の問題だけではなく、自分で書く作業ができるかということも問題となってきます。

 

(2)公正証書遺言の効力が問題となる場合

公正証書遺言は自分で遺言を作成する必要がないため、身体的な能力が衰えていることで問題になることはありません。

公正証書遺言では、

  1. 本人に遺言の内容を記憶して、公証人に口頭で伝え、その内容を理解することができたか、
  2. 遺言がどういう内容で、遺言が実現された場合にどうなるのかについて、認識することができたどうか、

ということが問題となってきます。

 

①および②は、記憶に障害があったり、言葉が出てこなかったり、あるいは言語に障害が発生している場合との関係で重要となります。記憶の障害が重ければ、本人は遺言の内容を記憶するのは不可能であり、言葉がまったく出てこないのであれば遺言の内容を口頭で公証人に伝えることも難しくなります。これでは公正証書遺言の要件をみたすことができず、記憶障害や失語症が大きな問題となるのです。
したがって、意思能力がなければ口頭で公証人へ伝えることもできない可能性があります。

 

■遺言無効確認請求訴訟について

認知症の故人が作成した不当な遺言書の無効を主張する場合には、「遺言無効確認請求訴訟」を提起します。
相続が開始すると通常は複数の共同相続人がいるものですが、遺言無効確認請求訴訟の提起は、遺言書の無効を主張する相続人が単独でも行うことができます。

また、遺言無効確認請求訴訟を裁判所へ提起する前提として、最初に家庭裁判所へ家事調停の申立てをすることが家事事件手続法で要求されています。

 

遺言無効確認請求訴訟は、裁判所によって遺言書の無効を確認してもらい、遺言に書かれているとおりに相続されるのを阻むためのものです。

この裁判では原告の請求が認められる判決が確定すると、遺言書の無効も確定する仕組みになっています。そのため、遺言書によって生じる法律関係について後から訴訟を提起する場合、その訴訟を受理する裁判所は遺言書が無効とされた判決を前提に審理することになります。反対に、原告の請求が棄却されて判決が確定すると、遺言は有効なものとして確定します。

なお、遺言書が無効とされた場合には、裁判終了後に遺産をどのように相続人の間で分配するかを話し合いで決めることになります

 

■遺言無効確認請求訴訟の流れ

遺言無効確認請求訴訟は、以下のような流れで進んでいきます。

 

(1)訴訟の提起

無効を主張して訴訟を提起する相続人は、以下の事由を請求原因として記載します。

  1. 被告が遺言の存在を主張していること
  2. 遺言者の死亡の事実
  3. 遺言者が亡くなった時に、①の遺言の目的である財産を所有していたという事実
  4. 原告が亡くなった人の相続人または承継人であることがわかる遺言者との身分関係

 

以上は、すべて遺言書の無効を確認する上で必要となる事由であり、これが欠けると訴訟を提起できなくなります

 

(2)被告からの反論

原告は遺言が無効であると主張したり立証したりする責任はありません。この場合、遺言は有効なものだと主張する被告が責任を負うことになっています。つまり、被告は遺言が確かに成立要件を満たしていると主張して抗弁します。

 

【自筆証書遺言の場合の主張内容】

  1. 遺言者が、遺言の全文、日付及び氏名を自分で書いて、押印した事実
  2. 加除訂正箇所があればその部分について、遺言者がその場所を指定し、これに変更を加えたことを記して署名し、変更した箇所に押印した事実

 

裁判でよく争われるのは、遺言者が自分で書いたかどうかという点です。その判断は筆跡により行われるのですが、主にメモや日記などの筆跡と同じかどうかで判断されます。
もちろん、遺言作成時の体調や感情により筆跡は変わってきますし、年齢とともに変化することもあります。筆跡が同じであることを証明するには、本人のものと確認できる原本を可能な限り提出する必要があります。筆跡の同一性を証明する必要がある場合には、専門家による筆跡鑑定が行われるケースもあります。

 

【公正証書遺言の場合の主張内容】

  1. 2人以上の証人が立会った事実
  2. 遺言者が公証人に遺言の趣旨を口頭で伝えたという事実
  3. 公証人が、遺言者が口頭で伝えたことを筆記し、これを遺言者及び証人に読んで聞かせ又は閲覧させたという事実
  4. 遺言者及び証人が、筆記した内容に間違いがないと認めた後、各自がこれに署名押印した事実
  5. 公証人が、①から④の要式に従って作成したことを記して、これに署名押印した事実

 

(3)原告からの再反論

被告からの反論に対して、原告は認知症だった本人に遺言作成時に遺言能力がなかったという抗弁を行うことができます。

裁判所は、

  1. 遺言者が、遺言の内容が高額であったり重大であったりすることを認識していたか
  2. どういう経緯で遺言の作成を依頼されたのか
  3. 遺言がどういう状況で作成されたのか
  4. 第三者が不当に干渉したのかどうか

 

などを勘案して判断しています。

 

また、遺言能力についての立証は、医師による診断やそれに付随する資料によって鑑定されることになっています

 

■まとめ

以上が遺言無効確認請求訴訟の流れです。

 

認知症の高齢者の場合は、できるだけ早い段階で遺言書を作成しておく必要がありますが、一部の家族が付き添っただけだと不当な遺言書が作成される可能性があります。また逆に、正当な遺言書であってもその正当性を立証する必要が出てくることもあります

相続開始後のトラブルを防ぐためには、法律の専門家である弁護士に予め相談しておくことをおすすめします。

 

遺言書は故人の意思を反映するだけにとどまらず、残された相続人たちの生活に大きな影響を及ぼしかねない重要なものです。ですから、現在認知症ではなくとも、遺言書について改めて見直し、有効な遺言書を前もって準備することがとても大切です。また、認知症などのご病気がある場合には更にトラブルが発生する恐れがありますので、遺産相続・遺言などに強い弁護士にご相談いただくことをおすすめします

 

当エクレシア法律事務所は、埼玉県の越谷市の南越谷・新越谷駅からすぐのところにある、20年以上の実績のある弁護士事務所です。

近隣の春日部市や草加市、吉川市、川口市、三郷市、八潮市、さいたま市、東京都足立区、千葉県流山市、松戸市・・・と、対応エリアも広くなっておりますので、まずは無料相談からお問い合わせください。お電話・メールをお待ちしております。

「遺言専門サイト」をオープンしました。
遺言の詳細情報はこちらをご確認ください。
↓↓↓
遺言専門サイト

お問い合わせフォーム