世の中ではさまざまな法律問題が起きていますが、その多くは突き詰めていくと「金銭的な問題」に行き着くことになります。そこで今回はこれら金銭にまつわる法律問題とその対処法などについて解説したいと思います。
■主な金銭トラブルの具体例について
1:貸したお金が返ってこない
最もオーソドックスとも言えるこのトラブル、このようなお金の貸し借りのことを法律用語に置き換えると金銭消費貸借といいます。このような場合は、支払い期日が過ぎた早い段階で債務者に対して督促することが大切です。期日が過ぎても督促がないと債権者は油断し、さらに支払いは遅れていきます。
2:示談金の未払い
交通事故などで示談をして、その金額が支払われないということもしばしばあります。
3:請負代金などの未回収
これは企業間取引などにおいてよく発生します。いわゆる売掛金(期日になっても支払いがない代金)などの問題です。
4:家賃の未払い
マンションやアパートの家賃の未払いや滞納も金銭トラブルの一種です。
■金銭の支払いが滞った場合の鉄則とは
このように金銭の滞納があった場合の鉄則は「早期対処」です。
金銭の支払いが滞って回収が不能になるケースの多くは、滞納当時の初動対応に誤りがある可能性があります。
そもそも金銭の支払いが遅れる債務者の多くは、ほかからもお金を借りている可能性が高く、全部の債務を一度に返済する資力がなくなっている可能性があります。
そうなると債務者が取る行動パターンとしては、「厳しく督促されるところから先に支払う」のです。けれども債権者の多くはこういった事情を知らずに、「まだちょっと遅れただけだし」などと油断していると、こちらの返済分をどんどん後回しにされてしまう可能性が高いのです。
そのため、債務者にこちらの支払いを優先させたいのであれば、できる限り早い段階で債務者側にこまめに督促する習慣をつけることが重要です。
〇金銭債務の特則について
実は借金などの金銭債務については、民法において次の3つの特則が定められています。
民法第419条(金銭債務の特則)
1項
金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。
これは簡単に言うと金銭の支払いが滞納した場合は、法定利率による利息を請求することができるということです。ちなみに法定利率ですので、例えば口頭でお金の貸し借りの約束をしたような場合でも法定利息である年利5%を請求することができます。
また、契約書などでこれよりも高い利率を定めている場合は、その利息を請求することができます。「損害賠償の額」としていますので、金銭の未払いに対する損害賠償額は利息ということになります。
2項
前項の損害賠償については、債権者は、損害の証明をすることを要しない。
例えば交通事故の場合、どのような損害が生じたのかということを相手方に対して証明しなければなりません。けれどもお金の貸し借りや売掛金などは、支払いが遅れると当然に損害が発生するため、いちいちその損害を債務者に対して証明しなくてもよいとしているのです。
3項
第一項の損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない。
これは簡単に言うと、金銭債務については債権者に対して言い訳をして対抗することができないということです。つまり、返済日にたまたま家族が救急車で運ばれて、銀行にいくどころの状態ではなかったとしても、その言い訳は債権者に対しては通用しないということです。
「突然仕事をクビになったから支払えなくなった」などという言い訳は、債権回収をしているとよく聞きますが、その事情は債権者にとっては一切関係のない話です。つまり金銭債務の場合はいかなる状況であっても支払いが遅れてはならないのです。
■契約書があるからといって、勝手に自力救済はできない
このような未払いの債権は、自力での督促が難しいと思われますので、できる限り早い段階で弁護士に相談することがおすすめです。
なお、「きちんと契約書を交わしているんだから、支払いが遅れたら強制的に回収できるんでしょ?」と言われる方がいますが、たとえ金銭消費貸借契約書や借用書、請負契約書を交わしている場合でも、それだけをもって直ちに強制執行をしたり、自力で強制的に回収したりすることはできません。このような場合は、一度裁判によって訴えて、裁判所から判決を貰ってからでないと強制的に回収ができませんのでご注意ください。
〇債権回収の流れ
通常、債権回収を弁護士に依頼すると、状況によりますが、概ね次のような流れで解決へと進みます。
1:弁護士名で債権者に対して内容証明郵便を送付し支払いを促す。
2:それでも入金にならない場合は、弁護士が代理人となって債務者に直接連絡し督促をするとともに、債務者の事情を探る。
3:債務者側に支払い能力がありそうな場合は、少額訴訟や通常訴訟によって訴えて、確定判決を得た上で強制執行という流れをとる。
4:もし債務者側に支払い能力が乏しいと思料される場合は、むやみに訴えても差し押さえる財産がないケースもあるため、このような場合は弁護士が債務者側と根気よく交渉して、分割払いも踏まえて妥協案を模索していくことになります。それでも回収不能な場合は会計上損金として計上するなどの処理も必要となる可能性があります。
債権回収のポイントは、なぜ支払いが滞っているかの「理由」です。民法上は言い訳ができないことになっていますが、実務上は「ない袖は振れない」という事態に陥りますので、まずは債務者側の経済状況をできる限り正確に把握した上で次の一手を打つことが大切です。
ただ、これは債権者が直接債務者に対して督促してもなかなか難しいため、できれば早めに弁護士に相談し、弁護士費用等を経費として計上することをおすすめします。
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