■序:痴漢冤罪で逮捕されたら
混雑した通勤電車の中で痴漢に間違われることは、電車を利用する以上、誰に起こってもおかしくないことです。
痴漢をしたか、していないかは、加害者・被害者の当事者本人以外にはわからず、被害者が「痴漢された。」と言い始めた場合、周りの人には判断はできません。結局、被害者の言い分のみで、痴漢をしたものとして警察に逮捕されてしまうことも起こり得るのです。
そこで、痴漢をしていないのに痴漢をしたとして逮捕されてしまった場合に、本人や家族が取るべき行動についてまとめてみましょう。
■1 本人が取るべき行動
(1) 罪を認めないこと
まず、逮捕されてしまった場合に本人が取るべき行動の第一は、警察に対して被疑事実を認める発言をしないことです。
警察官から、「認めないと釈放されない。認めれば釈放する。」、「認めれば軽い罰で済む。」などと言われて、面倒なことになるよりは認めた方が早いと考えて、してもいないことをしたと認めてしまうケースが実際にあります。
通勤途中で痴漢冤罪に問われた場合などには、早く出勤しないとまずい、逮捕されたことが会社にばれるとまずいなどと考えてしまいますし、そう考えるのも無理はないことです。
しかし、実際には釈放するかしないか、どのような罪に問うかなどの権限は検察官に属するもので警察官にはありませんから、罪を認めたからといって警察官の言うとおりになるものではありません。また、勤務先に痴漢の罪を認めたことが知れた場合に、解雇などの不利益な取り扱いをされてしまう恐れもあります。そして、真実やっていないとしても、いったん罪を認める内容の調書が作成されてしまうと、あとからそれを覆すのは大変難しくなり、後日裁判になった場合には大変不利になってしまいます。
したがって、不当にもやっていない痴漢の疑いで逮捕されてしまった場合であっても、あくまで否認を貫き、決してやってもいないことを認めてはなりません。
(2) 弁護士への依頼
次に、弁護士を警察に呼んでもらう必要があります。
弁護士は、逮捕された人の唯一の味方です。弁護士には、被疑者の弁護人として法律で様々な権能が認められています。この弁護士の助けなくしては、冤罪を晴らすことはできません。逮捕された人が弁護人に依頼する権利は、憲法上認められた権利です。
そこで、逮捕されてしまった場合には、警察に対して弁護士を呼ぶことを依頼すべきです。
もともと依頼したい弁護士に心当たりがある場合には、その弁護士を指名して、警察に連絡を取ってもらうことになります。
では、知っている弁護士がおらず、誰を呼んでいいかわからない場合はどうすればよいのでしょうか。
その場合には、「当番弁護士」を呼ぶことになります。当番弁護士とは、各弁護士会が、逮捕された人からの依頼があると、無料で弁護士を遅くとも24時間以内に警察に派遣する制度で、弁護士会では毎日担当を決めて弁護士を待機させています。この当番弁護士を呼んでほしい旨を警察に言えば、警察から弁護士会に連絡が行き、逮捕された人のもとに弁護士が派遣されてきます。
(3) 家族への連絡
逮捕されてしまった場合には、弁護士への連絡だけでなく、家族にも連絡を取るべきです。逮捕された人は警察に勾留されて身動きが取れず、勤務先への連絡などもできませんから、家族と打ち合わせて勤務先への対応をする必要がありますし、身の回りのものを勾留されている警察署に差し入れてもらう必要もあります。逮捕された人には、弁護士とともに、家族の協力が不可欠といえるでしょう。
通常は警察に頼めば家族に連絡を取ってもらえますが、弁護士を呼んだ場合には、弁護士を通じて連絡を取ってもらってもよいでしょう。
■2 家族が取るべき行動
(1) 弁護士への依頼
痴漢で逮捕されたとの連絡を家族が受けたときには、家族としては弁護士に依頼することを第一に行うべきです。
逮捕された本人は動転していますから、弁護士を警察に呼ぶことをしていないかもしれません。その場合に備えて、家族が本人のために弁護士に依頼することもできます。
もちろん、本人がすでに弁護士に依頼している場合には重ねて依頼する必要はありませんが、その場合にはすぐに本人が依頼した弁護士に連絡を取って、面談する手筈を整えましょう。そして、勤務先への対応など、今後家族が行うべきことについて相談、打ち合わせをしておきます。
家族としては、本人が逮捕されて勾留されている間は、勝手な判断で行動することなく、弁護士と相談した上で行動するようにしましょう。
(2) 本人との面会
弁護士への依頼を済ませたら、本人と早急に面会し、事情を聞いたり、勤務先への対応などを相談したりする必要があります。また、突然逮捕されて警察署に勾留されるという非日常的な経験をして、本人はショックを受けていたり精神的に落ち込んでいたりすることがありますから、これを元気づけてあげる必要もあります。家族が弁護士と連携して自分のために動いてくれていることを知れば、本人は安心し、元気づけられるでしょう。
なお、警察での面会時間は決まっていますし、差入れできる物には種類や数の制限もあります。また、捜査の都合で本人が警察にいない場合もありますので、予め警察に確認の電話を入れてから面会に行くことをお勧めします。
■3 まとめ
以上のとおり、本人・家族のいずれの立場からも、まずは信頼できる弁護士に依頼をして力になってもらうことが重要です。
刑事事件において、やってもいない冤罪を疑われている方の味方になるのは弁護士です。弁護士を上手く利用して、早急に依頼するようにしましょう。
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