概略

生前同居していた相続人(妻)宛に被相続人(夫)死亡の1年半後に債務請求がきたが、相続放棄を申請し受理された事例

 

相談者

被相続人の妻(Aさん)

 

相談前

Aさんは昭和44年に結婚して以来ずっと夫と同居していましたが、夫が経営する会社については、経営はもちろん経理にも全く関わっていませんでした。平成28年に「会社が倒産したこと、夫も自己破産したこと」を聞かされていたので、夫に借金はないものと思っていました。

平成29年1月9日に夫が亡くなり、その約1年半後の平成30年8月3日にAさん宛に信用保証協会から督促状が届き、大変驚いて相談に来られました。

 

相談後

相続放棄は死亡を知ってから「3ヶ月以内」に申し立てる必要があります。しかし、被相続人(夫)から「自己破産した」と聞かされていたこと、生前および死後にも夫宛てに債権者らしきところからの書面がきていたとの認識はなく、仮にあっても夫宛の郵便物をAさんが開封することはなかったとのことでした。そこで最高裁判決を適用して、3か月の起算点は死亡を知った日ではなく、信用保証協会からAさん宛の書面が届いた平成30年8月3日に、初めて債務の存在を知ったことになる旨の上申書を添付して平成30年10月5日相続放棄を申し立て、申立は無事に受理されました。

弁護士からのコメント

相続の開始があったことを知った時から3カ月以内に相続放棄をしなかった場合「単純承認」したものとみなすとされますので、3カ月を経過すると放棄できなくなります。放棄の期限は「3カ月」です。しかし最高裁判決によると、「相続開始時点では相続財産が全くないと信じ、そのように信じたことに相当な理由がある場合」には期間経過後であっても相続放棄が可能としています。

Aさんのケースでは、Aさんは夫の会社に一切関わっていなかったこと、「会社が倒産した時点で、個人も自己破産した」と説明されていたこと、さらに、Aさんは専業主婦で世情に疎く、夫宛ての郵便物を生前は中身は聞かず本人に手渡していたこと等からAさんに直接督促状が届いた日に初めて、夫に借金があることを知りました。ゆえに夫に借金がないと信じたことに相当の理由があったといえます。

これらの特殊事情を裁判所に説明して、相続放棄を受理してもらうことが可能となります。れた事例です。被相続人と長期間別居状態にあったケースでは3カ月を経過しても認められるケースはよくありますが、Aさんのように同居していても特殊事情があれば認められます。