Q. 私の母は、数年前から認知症で、現在施設に入所中です。最近、母は、私に「財産は全部お前にやるよ」と言ってくれているので、母に遺言を書いてもらおうと思います。認知症の母に遺言を作成してもらってもかまわないのでしょうか。

A. 遺言を行うには意思能力が必要です。重度の精神疾患がある者が書いた遺言は無効です。ただ、認知症の高齢者でも法律上の意思能力が全く無いわけではありません。意思能力が正常に回復している時期であれば、遺言をなし得ます。例えば、高齢者の意思能力を判断する方法として長谷川式簡易テストがあります。(テストは専門医の下で受けられます)

(参考)長谷川式知能評価スケール(HDS-R)での点数と認知症の関係は次の通り。

評価
 20~30点 異常なし
 16~19点 認知症(痴呆)の疑いあり
 11~15点 中程度の認知症(痴呆)
  5~10点 やや高度の認知症(痴呆)
  0~ 4点 高度の認知症(痴呆)

意思能力は、
①遺言者の認知症の内容、程度がいかなるものであったか、
②遺言者が当該遺言をするに至った経緯、
③当該遺言作成時の状況を考慮し、
④当該遺言の内容が複雑なものであるか、それとも、単純なものであるか
との相関関係において判断されます。
例えば、上の表でいう「中程度~やや高度の認知症」に該当する人が、「不動産ABCは長男に相続させる、不動産DEFは長女に相続させる、預貯金甲乙は次男に相続させる、預貯金丙丁は次女に相続させる」という詳細な遺言を書いたとします。 遺言内容は不動産と預貯金とに分類されているので、単純な遺言ではありません。 つまり、意思能力の程度が低い人(=認知症の程度が高い人)が書ける内容ではないので、この場合、遺言能力は無かったと判定される可能性が大きいです。 このように、遺言を行う意思能力があるか否かは、遺言時における本人の具体的状態に応じて判断されます。10点以上であれば、意思の疎通が図れると判断されるケースが多いです。
認知症の方が、遺言をする場合は、自筆遺言ではなく、公正証書遺言をお勧めします。自筆遺言では、遺言者が全部自分で書かなければならないのですが、公正証書遺言では、公証人が作成して、遺言者は署名だけすればよいので、かなり容易に作成できるからです。また、公証人が立会確認をしていることで、後日、遺言能力が争われたときも、有効であると認められやすい傾向にあります。