生前贈与に年間110万円までの基礎控除額がある事は、すでにご存知かと思います。(詳細は前回の記事参照:生前贈与の基本、贈与にはなぜ時間をかける必要があるのか)
これを利用して毎年110万円ずつ連年贈与(定期贈与)を繰り返せば、多額の資金を非課税で贈与することが可能になります。
しかしこれ、ちょっと間違えると、脱税を疑われかねない可能性が潜んでいるのです。
■そもそも、「贈与」ってなんだ。
皆さんは、贈与の意味を正確にご存知でしょうか。
贈与とは、民法において次のように規定されています。
民法第549条
「贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる」
たったこれしか規定されていません。という事は、贈与契約書を作成しなくても、法的には贈与は成立するのです。
ですが、相手が税務署となると話が変わってきます。
■贈与契約書は、自己防衛のために必ず作成すべきもの。
税務署としては、少しでも贈与税をかき集めたいわけですから、こうした連年贈与については次のような解釈を主張してくる可能性があります。
「10年にわたって毎年110万円ずつ贈与することを、当事者間で予め約束していたのであれば、それは1年ごとの贈与ではなく、10年の間、毎年110万円を受け取る「権利」を贈与したのだから、贈与税がかかります」
いかにも税務署らしい言い方ですが、正論といえば正論です。万が一税務署からこれを指摘された場合は、納税者としてはこれに対して反論しなければならなくなります。何を反論すれば良いのかというと、それこそ先ほどの民法の規定に立ち戻れば良いのです。
すなわち、「当事者同士の意思の合致」です。そしてそれを税務署に対して客観的に証明できる唯一のもの、それが「贈与契約書」なのです。
毎年の贈与に対して、有効な贈与契約書が保存されていれば、先ほどのような税務署側の主張に対抗することができるのです。
そうは言っても、疑われる事自体面倒ですので、できればそれぞれが単発の贈与に見えるよう、毎年贈与の内容をアレンジするなどの工夫はすべきでしょう。
111万円の贈与を行って1000円ほどの贈与税を納めて贈与税の申告をすることで、贈与の証拠にするという方もいらっしゃいますが、この点についても、やはり弁護士や税理士などの専門家に相談して確実な贈与の証明を残したほうが良いでしょう。
■そんなに甘くない。贈与は「本当に」贈与すべし。
家族間での贈与においては、家族だから故に次のような問題が生じる事があります。
例えば親が子供名義の口座を作って、そこに毎年勝手に振り込んで贈与したことにするようなケースがあります。
しかし実際は、通帳も印鑑も管理しているのは親です。これでは、事実上贈与が成立したとは言えません。
これは、夫婦間贈与においても同じようなことが言えます。
贈与とは、あくまで贈与を受けた側がその財産を使用管理できる状況に置かれていなければ、有効とはいえません。税務署は、こう言った細かな点もしっかりチェックしてきます。
○ 通帳や印鑑は誰が管理しているのか。
○ 贈与したお金は、受贈者がちゃんと利用できる状況なのか。
○ 不動産や株式の場合は、ちゃんと名義が変更されているか。
また、言うまでもありませんが、現金の手渡しなんてもってのほかです。記録が残らないものは否定されたら反論できませんので、必ず銀行振込などで履歴を記録として残しましょう。
いわゆる形だけの贈与で通る程、税務署は甘くありません。生前贈与をする場合は、一連の手続きをしっかりと行なって証拠を残すとともに、贈与した財産は必ず受け取った人が管理できるようにしておきましょう。
■弁護士や税理士を利用するのも一つの方法
税務署が介在する手続きは、弁護士や税理士が絡む事でその信用性は大きく増します。そのため、生前贈与を検討する場合は、できる限りこれらの専門家に相談して生前贈与の相談から、贈与契約書の作成まで丸ごとお願いする事が一番確実でしょう。
税務知識に乏しい私たち一般人が単独で行なった贈与については、税務署は「間違っているのでは」との疑いを最初からもって調査をしてきますので、この点はよく肝に命じ、無理をせず弁護士など専門家に予め相談するようにしましょう。
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