交通事故の治療には健康保険を使いましょう
交通事故による治療については、必ず「健康保険」や「労災保険」を使用する「保険診療」で受診して下さい。医療機関にとっては、保険診療より自由診療の方が単価が高く多額の診療報酬を請求できるため、自由診療を勧めがちです。しかし、交通事故では健康保険が使えないというのは、全くの誤解ですから、遠慮なく健康保険を使って下さい。万が一、自らの過失がゼロでない場合は、絶対に自由診療はやめて下さい。過失相殺の法理から、保険会社からの既払い金が、治療費のうち被害者の過失割合部分に充当されて、結果として、被害者の受け取る金額が少なくなるからです。そうすると、相手方の過失が明らかに100%の場合であれば自由診療でも差し支えありませんが、実際のところは、相手方の過失が100%かどうかは、交渉や裁判を行わないと分からないケースも少なくありません。あえて危険な橋を渡ることなく、被害者が健康保険を使用して損をすることは一切ありませんので、できるだけ早く健康保険を使用するようにしてください。厚労省の通達により、「最近、自動車による保険事故については、保険給付が行われないとの誤解が被保険者等の一部にあるようであるが、いうまでもなく、自動車による保険事故も一般の保険事故と何ら変りがなく、保険給付の対象となるものであるので、この点について誤解のないよう住民、医療機関等に周知を図るとともに、保険者が被保険者に対して十分理解させるよう指導されたい。」と交通事故診療に健康保険を使用できるとの見解が示されています(昭和43年10月12日保険発第106号)。
次の具体例から、健康保険を使った場合、使わない場合の損得を見ていきます。
慰謝料・休業損害等 | 200万円 |
治療費 | 200万円(自由診療の場合) 30万円(保険診療の場合)
※自由診療ですと、保険診療の2倍の診療報酬を全額支払うことになりますが、保険診療ですと、通常の診療報酬の窓口3割負担で済みます。 |
過失割合 | 被害者30% 相手方70% |
1)健康保険を使用しない場合
(200万円+200万円)×(1-0.3)-200万円=80万円
自由診療ですと、保険診療の2倍の診療報酬を全額支払うことになりますので、被害者は治療費として200万円を支払います。その他の損害(慰謝料・休業損害等)を合わせると、被害者の損害額は合計400万円となります。
被害者はこの400万円を保険会社に請求しますが、400万円全体に対し30%の過失相殺がなされますので、被害者が受け取れる保険金額は、400万円の70%である280万円となります。
被害者は、すでに治療費200万円を支払っていますので、被害者の手元に残る金額は、結果として、80万円となります。
2)健康保険を使用した場合
(30万円+200万円)×(1-0.3)-30万円=131万円
被害者は治療費として30万円を支払ったので、その他の損害(慰謝料・休業損害等)を合わせると、被害者の損害額は合計230万円となります。
被害者はこの230万円を保険会社に請求しますが、230万円に対して30%の過失相殺がなされますので、被害者が受け取れる保険金額は、230万円の70%である161万円となります。
被害者は、すでに治療費30万円を病院に支払っていますので、被害者の手元に残る金額は、131万円となり、健康保険を使用しなかった場合よりも、手元に残る金額が多くなるのです。